昭和十一(1936)年建築

和朗フラット四号館-- 東京・港区に、昭和11年に建てられた木造洋館アパートメント。
当時「トランクひとつで入宅できる」といわれたのは、ホテルのように家具付きだったから。
広さ、間取り、ドアや窓のかたち、どれもおなじでない全8宅。
築八十二年のいまも皆が住み継ぐ、旧き良き、きげんのよい建物をご案内します。

建物は、木造二階建て・切妻造り。在来軸組構法。
つまり、<骨組みは日本古来の柱と梁の組合せ × 外見は洋館スタイル>。昭和初期の洋風個人宅によく見られる方法です。
外壁は白色の漆喰仕上げ。建物正面の扉と窓は外開きの開閉式で、アーチ形・長方形・隅切りの3パターンで統一されています。この設計とデザインは建主:上田文三郎自身によるものです。

建物の外観は建主の好みや知見であることが多いですが、この建物では、敷地のかたちという現実面も、デザインに影響を与えています。
敷地は、私道と崖地に挟まれた南北に長い長方形で(1:4比)、道沿い長辺が東向き。地形どおりの箱型に8宅の賃貸住宅を建てると、昼の日ざしが入る南向き窓が限られてしまいます。そこで建物の道路沿い3~4か所を直角に切込んだり空間をずらす方法で、全宅に南向き窓を設けました。その結果、建物全体に波打つような凹凸が生まれ、各所のアーチ窓と相まって四号館独自の「日本とは思えない風景……」が生まれた、と解釈されています。

8宅の構成は、シングル用4宅(1K)と家族向き4宅(2K+家事室、3K+家事室)。
すべて広さ・間取りは異なり、各宅ごと窓や桟のデザイン、玄関ドアやアルコーブのかたちも異なります。
共通するのは、室内の壁と天井が木摺り・白漆喰仕上げのこと、床のラワン材縁甲板張り、木部塗装の濃茶色オイルステイン仕上げ、建具の金物が真鍮製のこと、電灯には乳白色のガラスグローブ……。

建設当初は家具付きで貸し出されました。
寝台は畳敷きで造り付け、壁面の扉を開けるとパイプが通る洋服掛けだったり棚板付き収納だったり、そして室内の食卓・デスク・椅子・ソファ・敷物・花びん等が備品でした。
これは建主:上田が本業を米穀政策としながらも建築に興味が深く、アメリカ旅行の際に感心したアパートメントホテルのシステム=「トランクひとつで入居でき、短期宿泊(ホテル)も長期滞在(アパート)もできる」を東京で試みた結果と考えられています。また設計の最初から各宅内にバスルームがあり、洋式トイレ(浄化槽)・洗面台・ガス風呂が設備されていました。
時は昭和11年、東京の中心地近くといえ、かなり少数派のアパートでした。

1980年代から経年変化の補修がはじまります。

修繕の方向は<水廻りは最新に、居室は建築当初の仕様に>。そこでかつてのバスルームは、トイレ・洗面所・バスユニット(シャワー・追焚・浴室暖房乾燥機付)に分割され、給湯は3か所(台所・洗面所・風呂場)。エアコンは窓付け式を室外機に変えて窓を回復。その後台所のコンロがIHになりました。
近年では玄関や居室に木製の網戸が再生されています。あちこち工夫して窓を開けることで、その時々の風がぬける82年前の昭和の暮らしを楽しむこともできます。

2006年(平成18年)築七十年の記念に建物と各宅を撮影。
2013年(平成25年)築七十七年。記録をかねて写真集を作りました。前半第一部は8宅の内外。第二部は建築申請前後の図面や資料、建物細部の写真、職方の仕事や修繕風景などです。
住む人と共に時代を生きるアパートメント-- 和朗フラット四号館の自己紹介として、建築にご興味ある方には楽しんでいただけるかと思います。(見本と販売は四号館1階ウグイスリトルショップにて)

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2018年12月